胃カメラというと、苦しいものと思っている方は少なくないと思います。最近は、内視鏡技術の進歩により、超極細の内視鏡が開発され、鼻から胃カメラを入れることが可能になりました。最大の特徴は、“胃カメラ”=“苦しい”の一番の原因と言える咽頭反射(オエッ)がほとんどないということです。初めて胃カメラを受けてみようという方はもちろん、以前口からの胃カメラで苦しい思いをされた方や、全身麻酔の注射が嫌な方などにも、お勧めの検査方法です。
当院では、現在ある経鼻内視鏡の中で最も細い、先端径4.9mmの内視鏡を使用しています。通常の口からの胃カメラが10mm程度の太さですから、約半分の太さです。
経鼻内視鏡(上)と従来の内視鏡
咽頭反射(オエッ)は、カメラが通る時に舌根(舌の付け根)に触れることで起こります。右の絵の様に、経鼻内視鏡は舌根に触れずに食道の方へ通過していくので、咽頭反射がおこりません。
以上、経鼻内視鏡のメリット、デメリットを説明しましたが、内容を理解された上で、ご希望の方はお申し出ください。もちろん、今までの口からの内視鏡で苦しくなかった方は、わざわざ経鼻内視鏡をする必要はないかもしれませんが、大半の方にはメリットの大きい検査であると思いますし、私も経口内視鏡を飲むのが苦手で、毎年経鼻内視鏡を受けています。
“大腸ポリープ”というと「ワアーッ、えらい病気になってしもうた」という方や、逆に「なんや、毎年とっている人もまわりにいる。イボみたいなもんとちがうん?」という方もおられます。私の見解は「心配のいらないものがほとんどですが、あなどってはいけません。」です。かなり漠然とした表現になってしまいました。以下に、大腸内視鏡検査、大腸ポリープ、当院で行っている日帰り大腸ポリープ切除術について説明します。
大腸は右の図のように、直腸から盲腸まであり、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)では、肛門からカメラを挿入し、この大腸全体を観察します。
当然、大腸を空の状態にしておく必要があり、検査の前日は検査食にしていただき、当日に下剤を1リットル~1.5リットル飲んでいただく必要があります。バリウムの注腸検査と違い、直接大腸を観察できるので、炎症やポリープ、癌の有無など、詳細な情報が得られ、病変の一部の組織を採ったり、ポリープそのものを切除したりすることが可能です。
検査時間は通常10-20分程度です。当院では、右の硬度可変式スコープを使用し、より苦痛の少ない大腸内視鏡検査を心掛けております。
大腸カメラ(硬度可変式)
大腸ポリープとは、大腸の粘膜からとびでているものの総称で、大きく腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープに分けられます。非腫瘍性ポリープには、腸炎などの炎症のあとにできる、炎症性ポリープや、一種の老化現象ともいえる過形成性ポリープなどがあります。これらのポリープは癌になることはまずありません。腫瘍性ポリープは、良性の場合、大半が腺腫と呼ばれるものであり、悪性の場合、大半が癌ということになります。腺腫は、将来癌になる可能性があり、ある大きさ以上になったり、形がいびつになったりなどすると、内視鏡で切除します。また、ポリープの形で診断される癌の場合、ほとんどが早期癌ということになります。したがってポリープを内視鏡で切除する場合、ほとんどがこの腺腫や、早期の癌を対象にすることになります。
通常の大腸内視鏡検査で大腸ポリープを認めた場合、あらかじめ同意されていた方は、その場で以下のようにポリープ切除術を行います。スネアというワイヤでしばって通電するのですが、痛みはありません。通常5-10分程度で終わります。大きいポリープや、リスクが高いと判断した場合は、入院が必要になりますので、後日連携病院を紹介します。
ポリープを切除した後は、回復室で休んでいただいた後、問題なければ帰宅していただきます。ただし、頻度は少ないですが、出血や穿孔といった合併症もあるため、約1週間は以下のことに注意していただきます。
冒頭に話を戻しますが、大腸ポリープについて、“心配のいらないものがほとんどです。”と申し上げたのは、ポリープが見つかっても、ほとんどが内視鏡で取ってしまえば大丈夫なものか、放置できるものです。という意味です。“あなどれない”というのは、頻度は少ないのですが、ポリープとして見つかったものでも稀にある程度進行した癌であることがあり、手術などが必要になることもあるという意味です。
日本での大腸癌の死亡者数は男女とも年々増加しており、2006年の部位別統計では、男女あわせて3位、女性では1位となっています。大腸癌は早い段階で見つかれば、内視鏡的に切除するか、外科的に切除するかで完全に治せる癌です。便が出にくい、細いなどの症状のある方や、検便で潜血陽性といわれた方はもちろん、50歳以上になられた方や、血縁家族に癌のある方はぜひ大腸内視鏡検査を受けることを勧めます。
正式には、ヘリコバクター・ピロリといいます。人の胃のなかに存在する菌で、ウレアーゼという酵素を出して、胃の酸から自分の身を守り、胃粘膜細胞や、粘液中に生息しています。
後に述べる様々な胃の病気と関係していることがわかってきており、特に胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者さんで、ピロリ菌をもっている方に、菌をなくす治療(除菌治療といいます)をすると、高率に潰瘍の再発が防げます。
正確な感染経路はまだわかっていません。ただ、胃の中にいる菌なので、口から感染するのは間違いなさそうで、口から口、便から口などの感染経路が考えられています。おもに幼児期に感染するといわれており、ピロリ菌をもっている親からの離乳食の口移しや、幼児期の衛生環境などとの関係が考えられています。大人は免疫力があるので、日常生活でピロリ菌に新たに感染することはほとんどないと言われていますが、子供への食べ物の口移しなどは、大人がピロリ菌をもっている場合は控えたほうがよいかもしれません。
日本人の場合、50代以上の方は、70~80%感染しているといわれています。若年者ほど感染率は低くなり、10代~20代の方は20%以下であると思われます。これは、幼児期に過ごした衛生環境と関係しており、戦前、戦後の上・下水道が普及していない時期に幼少期を過ごされた方に感染率が高くなっています。また、全世界では、およそ2人に1人がピロリ菌に感染しているといわれていますが、発展途上国で感染率が高く、先進国では感染率が低い傾向にあります。
ピロリ菌に感染すると、胃炎がおこります。また、胃潰瘍の患者さんの約90%、十二指腸潰瘍の患者さんのほとんどにピロリ菌が感染しています。さらに胃癌の90%以上、胃MALTリンパ腫という特殊な病気の90%以上にピロリ菌の感染が認められ、ピロリ菌とこれらの病気が関係しているといわれています。
ただし、ピロリ菌に感染している人のほとんどがこれらの病気になるわけではなく、潰瘍になる人は2~3%程度、胃癌になる人は0.5%以下です。
胃カメラを使って調べる方法と、使わない方法があります。胃カメラを使う場合は、胃の組織を少量採取して、その場で試験液を使って調べる方法(迅速ウレアーゼ試験)と、直接顕微鏡で調べる方法があります。胃カメラを使わない場合、尿素呼気試験といって、吐く息を調べる方法や、血液や便で調べる方法などがあります。
それぞれ特徴のある検査で、医師が適当と思われる方法で検査します。一つの方法ではっきりしない場合は、複数の検査を組み合わせることもあります。
2種類の抗生剤と、1種類の胃酸を抑える薬を1日2回、7日間服用していただきます。除菌治療が終わって、4週間以上たってから、先に述べた方法で除菌できたかどうかの判定をします。最初の除菌の成功率は、70%~80%程度で、耐性菌の増加によって、年々除菌率は下がっています。除菌に失敗した方も、2次除菌といって、別の抗生剤を使用して再度除菌できますので、合わせると、今のところ95%以上の方が除菌できます。
除菌の治療中に軟便や下痢、味覚異常といった副作用がでることがありますが、ほとんどが軽症で除菌が終わると治りますので、7日間薬を飲み続けることが必要です。(薬が抜けたりすると除菌率が下がります。)稀ではありますが、ひどい下痢や、血便などが出た場合はすぐに医師にご連絡ください。
除菌成功後のピロリ菌の再感染率は年間1.5%程度と低いといわれていますが、除菌に成功した後も腹部症状が続いたり、潰瘍ができる場合などは、ピロリ菌を再度調べます。
一番の効果は、胃・十二指腸潰瘍の再発がほとんど防げることです。潰瘍の薬を飲み続ける必要もなくなる場合がほとんどです。他に、胃炎や胃のポリープ、血液の病気やじんま疹など、さまざまな病気でピロリ菌除菌の効果が検討されておりますが、現在のところ、胃・十二指腸潰瘍にしかピロリ菌除菌の保険適応はなく、潰瘍以外の除菌は自費診療となりますので、医師にご相談ください。
先に述べましたように、ピロリ菌感染と胃癌とは密接な関係がありますが、ピロリ菌を除菌すると、どの程度胃癌が防げるかは、まだ十分解明されていません。特に高齢の方はピロリ菌が感染してから長い年月がたっており、胃炎が進んでいることが多く、あまり除菌による発癌予防効果は期待できないと思われます。また、現在の保険適応では、すべてのピロリ菌陽性の患者さんに除菌ができるわけではないことも問題点としてあります。
一部のヨーグルトやココア、はちみつ、梅肉エキス、お茶などに含まれるカテキンなど、いろいろな食品でピロリ菌に対する抗菌効果が報告されています。
ただし、通常我々が食すような量ではピロリ菌を抑える作用はあっても、完全になくす(除菌する)までにはいたっていないというのが現状のようです。
児島医院 内科・胃腸科・小児科
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